顕微授精の安全性が保証されている訳ではないのです

2019.02.25
顕微授精の安全性が保証されている訳ではないのです

顕微授精の安全性が保証されている訳ではないのです

現在すでに不妊治療をしているご夫婦は勿論ですが、これから不妊治療をしようと考えているご夫婦に一言アドバイスをさせていただくのであれば・・・不妊治療(生殖補助医療)に関する正しい知識を身に付けていただくことが重要であり必須であるということです。

一般的に顕微授精は、不妊治療の現場で最も多く用いられている高度な技術として知られていますが、顕微授精による出生児の安全性に関しては未だ不明な点が多いのも事実です。つまり、顕微授精の安全性が保証されている訳ではないのです。だからこそ、顕微授精に代表される生殖補助医療のメリットとリスクを十分に理解した上で、夫婦毎に適切かつ安全な不妊治療を選択していただきたいのです。

すでに欧米では、顕微授精児の先天異常発症率が自然に妊娠して生まれた子どもに比べて有意に高いことを述べた論文が多数報告されています(MJ. Davies, VM. Moore, KJ. Willson, et.al. (2012) Reproductive Technologies and the Risk of Birth Defects, The New England Journal of Medicine, 366: 1803-1813.)。2015年にはコロンビア大学教授のピーター・ベアマン氏らにより『American Journal of Public Health』という雑誌に「大規模な疫学調査の結果、顕微授精に代表される生殖補助医療で生まれた子どもは、自然妊娠で誕生した子どもに比べて自閉症スペクトラム障害(社会性、コミュニケーション、行動面の困難を伴う発達障害の総称)であるリスクが2倍である」というデータが報告され、その内容はアメリカ政府のアメリカ疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)に所管されました。上述しましたように、海外では「顕微授精と自閉症スペクトラム障害の関係の間に因果関係がないとは言い切れない」という見解を出しています。

一方、日本でも、2011年には厚生労働省科学研究班の生殖補助医療出生児に関する調査において、顕微授精・胚盤胞培養・胚盤胞凍結保存の人工操作を加えるほど出生時体重が増加することが報告され、これはゲノムインプリンティング異常(遺伝子の働きを調整する仕組みに異常が出る病態)による胎児過剰発育である可能性が指摘されました。また、先天異常を専門とする医師らも『顕微授精や胚盤胞培養のリスク』を危惧する研究成果を報告しています(有馬隆博, 岡江寛明, 樋浦仁(2012)生殖補助医療由来の先天性ゲノムインプリンティング異常症. 日本生殖内分泌学会雑誌.17:54-58.)が、なぜか日本においては不妊治療従事者の間で「顕微授精は安全です。自然妊娠と同じ位のリスクしかありません。元気なお子さんが生まれています」と語られ、「顕微授精児は当然健常である」と考えられ、海外に比べて先天異常に関して目が向けられることが少なく、顕微授精に伴う危機管理意識が上がらない現況にあります。先天異常と顕微授精との間に因果関係がないということを科学的に証明することは極めて困難ですが、安全保証が明確に立証できていない現況にあるからこそ、因果関係があるという前提で危機管理をすべきであると考えます。

少し難しい話になりますが、ヒトの細胞には遺伝情報DNAを修復する機構が備わっています。例えば、皮膚や肝臓などの一般的な細胞はDNAが多少損傷しても修復する能力(DNA修復酵素)があるのです。これは卵子も同様ですが、ヒトの精子は特殊な細胞で、精子が造られる過程でDNA修復能力は失われてしまいますので、精子にはDNA修復酵素がありません。そのため、損傷されたDNAは修復されずそのまま残り、射精された運動精子の中にDNA損傷精子が一部混在してきます。また現行の顕微授精の治療対象になる精子形成障害の場合は、精子産生量(精子数)の減少や運動率の低下のみならず、DNA損傷をはじめとする多様な精子機能の異常を生じます。ですから、安全な顕微授精を実施するためには、損傷を受けていないDNAを持つ精子を選別して穿刺注入し得ることが極めて重要になります。

それにもかかわらず一般的には、精子の最も特徴的な機能である運動性に着目して「運動精子=良好精子」という精子性善説に基づいた基準で1匹の精子を選んで顕微授精に用いています。しかし、上述したように運動性は必要条件ではあっても、必ずしも十分条件ではありません。分かりやすく言うと、見栄えの良い元気そうな運動精子であってもDNAが損傷している機能異常精子もあるということ、つまりヒト精子においては性善説が成り立たず、見かけだけではDNA損傷を始めとする精子機能の異常を見極めることはできないのです。

顕微授精という技術は、単に精子の数が少ないという精子の量(精子数)的不足を補うことはできますが、DNA損傷をはじめとする精子の質(精子機能)的異常をカバーすることはできませんので、実は 顕微授精は精子の状態が悪い方には最も不向きな治療になります。本来、顕微授精を実施する前に精子機能を精密検査した結果、精子が質的に良好(精子機能が正常で高品質である)、すなわち穿刺注入できる安全なレベルの精子であることを確認することが必須であり、品質管理し得た精子が用いられることが顕微授精実施の前提となります。しかし、一般的にこれらの前提が普及していない状況にありますので、実は顕微授精の実施はより慎重であるべきなのです。しかし、一般的に不妊治療従事者の間で精子性善説が信じられ、「精子の状態が悪くても、1匹でも精子がいれば顕微授精で妊娠可能です。顕微授精は安全です」と語られて汎用されてきた結果が、顕微授精による出生児へのリスクに繋がっている可能性は否定できません。

反復顕微授精不成功のご夫婦、また顕微授精に正直不安を感じている方、これから不妊治療を始めようと考えているご夫婦・・・是非、精子の品質管理を徹底する黒田式の精子精密検査(精子機能を高精度に解析し得る分子生物学的検査:精子機能の精密検査の項目を参照)を受けてください。科学的根拠に基づいた精子側の正確な情報を得た上で、精子機能が正常で穿刺注入できる精子だからこそ安全な顕微授精が可能になるという事実を見極めてから、その後の治療方針を検討していただくのも一つです。

医療行為は必ずリスクを伴うからこそ、命を作り出す不妊治療においては、安全性が何よりも優先されます。不妊治療のゴールは妊娠反応が陽性に出ることではなく、生殖補助医療で生まれた子ども達が心身共に健康に成長して、平均寿命まで元気に過ごせることなのです。不妊治療を受けるご夫婦にも幅広い正確な知識を身に付けていただき、現在の「顕微授精さえすれば子どもが授かる」という風潮から脱却して、それぞれの夫婦の不妊原因を解析した上で、夫婦毎に適切かつ安全な治療を選択してください。

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