精子機能の精密検査とは?

2019.02.21
精子機能の精密検査とは?

精子機能の精密検査とは?

不妊治療が始まると、女性は多くの検査を受けますが、男性は基本的には精子検査のみです。一般的な精子検査では、精液1滴をガラス板に滴下して顕微鏡で精子数、精子運動率、精子形態などの外見的な観察をします。その結果、決められた一定の数値に達していなければ、例えば、精子数の減少運動率の低下がありますと即、男性不妊と診断されます。しかし実は、精液を採取する毎に精巣上体や前立腺、精嚢の分泌液の量が増減しますので、精液量や精子数は大きく変動してしまいます。

また男性不妊の治療法ですが、中でも精子数が少なくて動きが悪いとなりますと、1匹の精子がいれば人工的に授精させられるという利便性から即、顕微授精を行う場合が殆どです。穿刺注入する1匹の精子は、大まかに精子の頭部形態(頭部外周形状)が楕円で泳いでいれば良い、つまり楕円頭部の『運動精子=良好精子』という精子性善説を基準にして選ばれていますが、ヒト精子の場合は形成過程で出生児の遺伝情報DNAの損傷を修復する能力を失うことにより、DNA修復酵素を持たない状態になりますので、精子形成が正常である男性の運動精子の中にもDNAが損傷された機能異常精子が一部混在してきます。つまり、ヒト精子では性善説が成立しません。ですから、「運動している」ことが精子機能を保証するものではありませんので、現行の精子性善説に基づいた『運動精子=良好精子』とみなす精子評価指標では不十分(不適切)であるということです。だからこそ、DNA損傷の有無のみならず、他の多様な精子機能が正常か異常かを見極めること、言い換えれば、精子の品質管理をすることは極めて重要であり必須であります。

顕微授精には、授精させるのに必要な精子は たったの1匹ですみますし、人の手を介して人工的に精子を卵子に穿刺注入して容易に授精させられるというメリットがありますが、一方で、顕微授精ではDANが傷ついた等の精子機能に異常がある精子でも人為的に授精させてしまうというリスクを伴います。言い換えれば、受精できない精子、もしくは受精してはいけない精子が、顕微授精という技術により授精させられるリスクがあるということです。なぜならば、顕微授精は、単に精子の数が少ないという精子の量(精子数)的不足を補う技術であり、DNA損傷をはじめとする多様な精子の質(機能)的異常をカバーすることはできない技術だからです。

だからこそ、『命を生み出す』生殖補助医療を安全に実施するために、精子側の視点からは『どのような性質を持った運動精子を卵子に注入するか』という精子品質管理が極めて重要になります。言い換えれば、治療する前の段階で、出生児の遺伝情報DNAの50%を担う精子が質的に良好で精子機能が正常であること、すなわち、穿刺注入できるレベルであることを確認することが顕微授精実施の前提となりますので、本来 顕微授精は精子の状態が悪い、精子の品質が悪い方には最も不向きな治療なのです。しかし現状では、この前提知識と機能異常のない高品質精子を選別・評価する技術(逆に言えば、機能異常精子を積極的に排除する技術)が普及していませんので、顕微授精の実施はより慎重であるべきであります。

したがって、安全性の高い顕微授精は、次の二点に絞られます。一つは、精液中の正常な機能を有した高品質精子(DNAに傷のないDNA非損傷運動精子:DNA断片化陰性精子)の比率が高く、どの精子を卵子に穿刺注入しても安全な場合です。そしてもう一つは、精液中の正常精子比率は低かったが、高度な精子分離技術により、高品質精子(DNA断片化陰性精子)を選別できた場合です。しかし、後者の高品質精子を無菌的に選別できる技術を持つ施設は極めて少ないのが実情ですから、安全な妊娠が期待される顕微授精の適応は、前者が殆どなります。

DNA損傷を始めとする多くの精子機能の異常は、顕微鏡で簡単に認識できる精子数や運動率を見る一般的な精子検査では見極めることできませんが、高精度な分子生物学的な解析技術(① 精子の先体反応・精子の卵子接着機能の解析 ② 精子のDNA構造正常性の解析 ③ 精子の中片部の評価 ④ 精子の頭部空胞の評価)を確立したことにより、多様な精子機能を精密に調べられるようになりました。この技術によって、精子機能が正常か異常かを、すなわち、精子の質の良し悪しを正確に把握できるようになり、現在では精子側の妊孕性をある程度予測できるまでになりました。

なかなか妊娠できない、不妊治療を続けていても全く成果が出ない場合には、検出できていない 隠れている精子機能異常が原因かもしれません。「男性不妊、即、顕微授精」を実施する前に、「顕微授精しても大丈夫なレベルの精子であるか否か?」を見極めましょう。是非、精子機能の精密検査を試みてください。

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